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どうしても零点がとれなかった君に

やあ久しぶり。すっかり返事を書くのを忘れてしまっていた。許してほしい。色々と大変だったんだ。最愛の恋人と別れたり、唯一の育ての親を亡くしたり、おまけに税金がとんでもないことになりやがってね、もう本当に大変だったんだ。 「君は10年後、ひとりぼ…

星の夢の終わりに

ピーピーピーピーピーピー 人間が死んだあとに行く世界にはなにもないのだけれど、ただ音楽だけが鳴り続けているのだと誰かが言っていた。 人間が死んだあとに行く世界にはなにもないのだけれど、ただ銀河を駆け抜けていく鉄道だけがあるのだと誰かが言って…

下らない酒をふたりで飲むように

台風のせいだろうか、外では嫌な雨が降っている。迷い雨とでも言ったら良いのか、土砂降りになったり急に止んだりを繰り返している。 僕は今、数式と記号を使って真実とはかけ離れた単純な物語を高校生に教えている。記憶に残れば何でも良いから少々間違った…

透明でも愛して

すべては、全くの偶然だった。でも、偶然しか世界には存在しないのだとしたら、もしかしたらすべてのことは必然だったのかもしれない。 2010年。22歳になった僕が直面したのは、3つの死だった。 5月。ずっと闘病していた祖父が前立腺ガンで死んだ。最後の言…

グッバイ・ハロー

「ああ、もう朝なのか」というはじまりは、今日が日曜日と言うことを考えるとふさわしいと言えるものではなかったのかもしれません。ベッドの中で数分、じっと何かを考えていると再び眠りに落ちました。すごく長い夢を見ていました。考えていたことも、夢の…

バレリーナ(1)

私のお母さんは、バレリーナでした。だから物心つく前からバレエは、私のすべてだったのです。きついレッスンをずっと母から強いられてきました。それはこの世界で当然のことのようでした。私も他の子供たちと同じように淡く透明な涙を流し、歯を食いしばり…

すこやかな君に捧ぐ

授業中、窓から外を見るのが好きだった。学校プールから少し離れた向こうには神社があって、何百年と続く歴史のせいか、生い茂る木々たちも背が高い。ぼーっと目に映る深く濃い緑を読み解こうとしていると、自分が考えた世界の中に吸い込まれていくみたいだ…

私は文章が書けない

つらい。私の景色を返して。 お父さんがおうちに帰ってこなくなったのは桜が少しずつ色づいていく季節のことだった。私は1年の休園を経て、ようやく幼稚園に通う事が出来ると意気込んでいた。お父さんの病院のすぐ傍にある幼稚園。私はスミレ組だった。これ…

Soup(1)

「ほんとう」みたいなものが透けて見えるときがある。でもほとんどは知らない間に通り過ぎていくんだ。たとえば純粋で危なっかしくて、すぐに折れてしまいそうな七色に光り輝く鉱石。そういったものと健全に向き合うのはひどく難しい。だからだろうか、僕は…

それいぬ

機械の身体なら、よかった。心臓の音がうるさくて目を覚ますのは、私がうつ伏せにしか眠ることが出来ないから。肉々しい拍動に辟易しながら、両手を支えに、顔をシーツからそっと持ち上げる。急いで口をゆすいで気持ち悪さを洗い流して、身支度を整えて家を…

思い出せない

終電は人を動物の群に変えてしまう。僕はシートに座り、眠ったふりをしていた。しかし電車の揺れには敏感に反応した。許容量ぎりぎりのアルコールのせいだった。体の中に木製の樽がすっぽりとはまりこんでいて、沢山の種類のアルコールは皆一様にその場所に…

真夏日和

つらい。私の景色を返して。お母さんと私と妹で家にいたら知らない男の人が入ってきた。お母さんは立ち上がってその人に笑いかけた。その人は私の名前を呼んで、よくわからないことを言った。内容は忘れてしまった。でも、何にもわからなかったけどわかった…